<民事再生> |
<再生手続の申立て> |
一 |
誰が申立てを行えるのか |
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すべての法人、個人が利用できます。法人であれば、株式会社でも、有限会社でも、医療法人でも、学校法人でもかまいません。個人も、消費者でも自営業者でもかまいません。具体的には、医療法人社団ますみ会が申立てた例が報道されています。この申立ては裁判所で棄却され、最終的に裁判所の職権で破産に至っています。さらに珍しい例では、協同組合が申立てたケースとして、鹿児島の共同水産協同組合が申立てたケースであります。個人で使った例としては、東京のチェッカーモータース鰍ェ、民事再生手続を申立て、それと同時にこの会社の代表者も手続を申立てた場合があります。代表者が個人保証をしていた保証債務を整理すべく、個人として自らも民事再生手続を申立てたという珍しいケースです。中小企業が苦しくなったときに、その再生を支援するという立法趣旨ですが、大企業が使ってはいけないということはないので、大企業でも申立てが可能です。具体的には総額で1兆8700億円の負債(グループ間の借入保証相殺後)も持っているそごうグループ22社が申立てを行いました。ほとんどの例は債務者自らが申立てたものです。株式会社であれば、取締役の決議を経て代表者からの申立てを行うということになります。しかし、一部制限はあるものの債権者も申立てることができます。具体的には柏栄興産(株)があります。この柏栄興産(株)はサンロイヤルゴルフクラブというゴルフ場を兵庫県で運営している会社で、ここの会員がプレー権の維持を目的として民事再生手続の申立てを行ったという珍しい例です。会員は会員権を得るために預託金を預けており、その預託金を返還請求する権利を持っているため債権者とみなされたのです。 |
二 |
どんなときに申立てられるのか |
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従来の和議法では申立てにあたって支払不能、債務超過(負債の方が資産を上回っているような状態)が必要とされていました。しかし、民事再生手続ではそうした事実に至るおそれがあるだけで申立てることができます。さらに、事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができないときにも申立てができます。つまり、借りたお金を返そうと思って返すと、事業の継続が難しくなるという状況のときも申立てることができます。ただし、債権者が申立てられるのは支払不能や債務超過の事実が発生する恐れがあるときだけに限定されます。申立ては主な営業所の所在地を管轄している地方裁判所に対して行うことになります。グループ全体で処理を進めることができるように、親会社の所在地を管轄している地方裁判所に申立てたら、子会社もそこで申立てることができます。 |
三 |
申立て後、経営陣はどうなるのか |
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原則として、既存の経営陣が残って業務を継続します。倒産すると管財人がきて、経営陣が全員退陣するという会社更生法の手続とは大きく異なります。ただ、管財人・監督委員が選択される場合もあります。管財人が選任された例として、大阪の双福鋼機鰍ェあります。 |
四 |
監督委員の役割は何か |
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再生計画が最終的に認可された後、監督委員がいる場合3年間は裁判所の関与が続きます。この点が和議法と大きく異なるところです。和議は認可決定が終わったら裁判所が関与しなくなってとたんに和議条件が守られなくなるというケースが多々ありました。しかし、民事再生法のもとでは原則として監督委員が選任されて、再生計画の認可決定後、3年間は裁判所が履行を監督するので、その3年のうちに再生計画が履行されなければ、結局、債務者は破産へ追い込まれる可能性が高くなります。 |
五 |
開始決定までに何が起こるのか |
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裁判所が民事再生手続の申立てを認めることを「開始決定」と呼びます。申立てから裁判所によるか意思決定までには若干の空白期間が生まれます。平均1ヶ月くらいです。そごうの場合は、2週間で開始決定に至りました。高橋ビルディングという会社が即日決定したという例もあります。会社更生法によったスーパー長崎屋の場合3ヶ月かかりました。開始決定までの間に、従業員や取引先の納入業者が不安になったりするのを防ぐため、債務者の財産の散逸を防ぐ「保全処分」という手続が裁判所によって行われます。この手続により、債務の弁済・資産の処分・新たな借入れなどにつき裁判所の許可または監督委員の同意が必要になります。保全処分自体はこれまでの倒産法の手続でも珍しくありませんでしたが、民事再生法はこれをさらに強化し、一般債権者が仮差押や強制執行を行った場合、それを中止したり取り消したりする命令を裁判所が出すことがあります(中止命令・取消命令)。また、まれにしか使われませんが、個別の権利行使に対して中止命令や取消命令 をかけるのではなく、包括的に一切、一般債権者の権利行使を禁止する包括的禁止命令を裁判所が出すことすらあります。 |
六 |
債権者や担保権者はどうなるのか |
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一般債権者は債権を回収したければ裁判を起こして勝訴した上で、確定判決に基づいて強制執行をかけて、債務者の一般財産を処分して、そこのお金から回収するしかありません。担保権者は、一般債権者のような拘束を受けず、自分の担保権を実行できます。しかし、担保権者が債務者の民事再生手続申し立て後に、こうした動きをとると、担保権を設定しているもの次第で事業再建が困難になる場合があります。例えば、中小企業などは、生産設備の一番中心である工場を担保に入れているケースは珍しいことではありません。この場合担保権を行使されたら、立ち直りようがありません。そこで、裁判所の判断により、競売などに対し個別に中止命令を出すことがあります。担保権実行が中止させられて、中断期間に話し合いが進まなかったら、またその期間が更新されるという運用になりますが、最終的に担保権者が交渉に応じなければ、それ以上の担保権実行中止はできません。担保権者が担保権を実行した場合、全額回収できれば問題ありませんが、回収できなかった場合その部分は一般債権者となります。担保権者以外に労働債権・租税債権を有するものも優先権を有しています。必要に応じて中止命令が下される場合もあります。 |
七 |
担保権消滅請求制度とは何か |
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債務者は、担保物権が事業継続に必要不可欠なものであることを裁判所に認めてもらい、裁判所が許可をすれば、時価相当額を裁判所に納めて担保権を消滅させることができます。不服のある債権者は即時抗告をすることができます。また、債務者が提示する担保物の時価に納得できない場合、裁判所に価額決定請求をすることがででます。裁判所はこの価額決定請求があった場合は評価人を選んで、その評価人が担保物件の時価を評価し、それで価額が決定されます。この決定に不服があれば、即時抗告できます。最終的に価額が決まれば、すべての担保権者は拘束されます。担保権が消滅すれば、裁判所の職権で登記の抹消がなされ、債務者が裁判所に収めた時価相当額が担保権者に配当されます。注意する必要があるのは、消滅するのは担保権だけであり、租税債権の差押とか、賃借権は消えません。 |
八 |
経営陣に対する損害賠償請求権の査定など |
<債権の調査・確定の作業> |
一 |
債権届出・債権者表作成 |
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一般債権者は、債権届出期間(数週間から場合によると4ヶ月)に債権額を届出ます。担保権者も担保でカバーされていない不足額について、再生債権として届出の必要があります。租税債権、労働債権などの優先債権を持っているものは届出の必要はありません。届出後、債権調査期間が設けられます。その債権調査期間内に債権が本当に存在するかについて調査が行われ、他の債権者の届出に異議申し立てがあるかどうかも確認されます。異議のない債権については、これで債権が確定して、再生債権者表に記載されます。この再生債権者表の記載は確定判決と同一の効力をもちます。異議がある場合確定訴訟を行いますが、訴訟の前に査定の申立てという制度もあります。債権が確定すると、その債権額に基づいて再生計画案が出たときに、賛成・反対の投票をする議決権が与えられます。届出を怠った場合、その債権は原則として失権し、債権の弁済が受けられないことになります。債務者は債権届出を受けて債権認否書というものを作ります。これは債権調査期間中に債権者が閲覧できるもので、届出届出がなくても債務者は債務と自分で認識している分に付いては、この認否書に債権者名と金額を記載しなくては債権者としては届出なしでも、そこに記載があれば失権しません。債務者は開始決定後遅滞なく一切の財産について、手続開始時点での価格を評価して、財産目録および貸借対照表を裁判所に提出しなければなりません。相殺適状にあれば債権届出期間内に相殺できます。 |
二 |
開始決定後の債権は共益債権 |
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共益債権とは、裁判所によって「開始決定」がおりた後に発生した債権のことをさします。例えば、納入業者が民事再生手続の開始決定が下った債務者へ掛取引で物品を納めると、この売掛金は共益債権になります。共益債権は再生債権に先立って保護されます。再生手続の開始決定前の債権であっても債務者の事業継続に必要不可欠な債権であると裁判所が許可または監督委員が承認すれば、共益債権として認められます。 |
三 |
否認権・返還請求権・履行請求権 |
四 |
再生計画以前に営業譲渡も可能 |
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開始決定後に裁判所の許可があれば、再生計画を待たずして営業譲渡を企業の一部または全部について行うことができます。この場合従業員の意見、債権者の意見も聞くことになっています。従業員の過半数で組織する労働組合があれば、その労働組合、そういう組合がない場合でも、従業員の過半数を代表する代表者の意見を聞きます。意見を聞いた上で、営業譲渡が事業の再生に不可欠だということであれば、裁判所は許可します。 |
五 |
簡易再生・同意再生 |
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簡易再生では債権の調査・確定手続が、届出債権額の5分の3以上の同意があれば省略できます。再生計画の内容についても事前に届出債権額の5分の3以上の同意があれば、いきなり再生計画の決議にいけます。同意再生は全員の同意があれば、いきなり裁判所の「再生計画の認可決定」にいたる手続です。 |
六 |
従業員の社内預金は一般債権 |
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一般債権は手続に拘束されるとはいいながら、小額であれば例外的に弁済を受けることができるのが通常です。一般に、申立て後は弁済禁止の保全処分の例外として数十万円程度、開始決定後は数十万円から数百万円が弁済されます。 |
<再生計画作成・決議・認可決定> |
一 |
再生計画作成は迅速に行われる |
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民事再生手続では、債権の弁済期間は特別の事情がある場合を除いて、再生計画の認可のときから10年以内にする必要があります。会社更生手続であれば最長20年です。再生計画案提出は申立てから3ヶ月くらいで提出しなければなりません。 |
二 |
再生計画で清算することも可能 |
三 |
計画作成に債権者委員会も関与 |
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再生債権者の過半数が委員会(3人から10人で構成)の手続関与に同意し、さらに委員会が再生債権者全体の利益を代表すると認められれば、裁判所はこれを承認して、この委員会が手続を仕切る。 |
四 |
再生計画案の決議を行う |
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総債権額の10分の1以上を有する債権者または債権者委員会が債権者集会の招集を申立てることができる。決議は、債権者集会を開催して行う場合と書面で決議を行う場合がある。多数決には、出席して議決権を行使できる。債権者の過半数かつ総債権額の2分の1以上の議決権を有する債権者の同意が必要です。 |
五 |
再生計画の手直しも可能 |
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監督委員が選任されていれば、再生計画が裁判所で認可されたあとも3年間は裁判所の監督が続き、管財人が選任されていれば、計画が終わるまで、裁判所の監督が続くのが原則です。履行が確実である、終わりそうであるという場合は監督命令が取り消されて、監督委員もいなくなり、すぐに終わることもある。債務者が履行しなかった場合、10分の1以上の債権を有する債権者が申立てれば、再生計画の取消ができる。必要があれば、裁判所は職権で破産手続開始決定を行える。再生計画を変更することも条件付で可能。不利な変更を受ける場合、債権者の承認がなければならない。債権者集会もしくは書面による承認が必要。 |